フィナステリドの内服は有用か?

推奨度:A(男性型脱毛症),D(女性型脱毛症)
推奨文:男性型脱毛症にはフィナステリドの内服を行うよう強く勧める.一方,女性型脱毛症には行うべきではない.

解説:フィナステリドは,テストステロンをより強力なジヒドロテストステロン(DHT)に変換する II 型5-α 還元酵素に対する阻害剤である.フィナステリド内服の有用性に関して,男性型脱毛症に対する 1 件のシステマティック・レビューと 12 件のランダム化比較試験,また女性型脱毛症に対する 1 件のランダム化比較試験が実施されている.先ず男性型脱毛症に関しては,12 件のランダム化比較試験を解析した,3,927 名の男性被験者を対象とした観察期間 12 カ月~24 カ月以上のシステマティック・レビューにおいて,脱毛部 1 cm 2 あたりの硬毛数は投与 6 カ月後(p<0.001),投与 24 カ月後(p<0.001)のいずれの時点でもフィナステリド投与群がプラセボ群より有意に増加していた.また,性機能障害については相対危険度が 1.39(95% CI,0.99~1.95)とフィナステリド投与群がプラセボ群より上昇する傾向があるとしている.さらに,フィナステリド(1 mg/日,0.2 mg/日)を用いた,414 名の「日本人」男性被験者を対象とした観察期間 48 週間のランダム化比較試験において,頭頂部の写真撮影による効果判定では,1 mg/日では 58%が軽度改善以上の効果があり,0.2 mg/日では 54%が軽度改善以上の効果が.引き続き 1 mg/日投与を継続した非ランダム化比較試験では,2 年間および 3 年間の内服継続により,軽度改善以上の効果が各々 68%および 78%の症例で得られ,その率は増加傾向を示した.別の 801 名の「日本人」男性被験者を対象とした観察研究において,フィナステリド(1 mg/日)5 年間の内服継続により写真評価において効果が 99.4%の症例で得られた.40 歳未満の症例,重症度の低い症例でより高い効果を示した.さらに,フィナステリド(1 mg/日)を用いた,27名の男性被験者を対象とした観察期間 6 カ月の観察研究において,患者の Quality of life(QOL)を示す Visual Analog Scale(VAS)や Dermatology Life Quality Index(DLQI)は 21.4 から 44.8(P<0.0001),5.74 から 3.40(P<0.01)といずれも改善した.

フィナステリドの副作用に関して,フィナステリド(1 mg/日,0.2 mg/日)を用いた,414 名の「日本人」男性被験者を対象とした観察期間 48 週間のランダム化比較試験に続く 374 名の「日本人」男性被験者を対象としたフィナステリド(1 mg/日)を用いた観察期間 2 年間の非ランダム化比較試験において,0.2 mg/日から 1 mg/日,プラセボから 1 mg/日に移行した患者で性機能に関する副作用はなく,プラセボから 1 mg/日に移行した患者で 1 例ずつ出現した,胃潰瘍,大腸ポリープに関しても,因果関係は不明としている.
重要な副作用として,頻度は明らかではないが,まれに肝機能障害があらわれることがある.さらに,フィナステリド(1 mg/日)を用いた,355名の男性被験者を対象とした観察期間 48 週間のランダム化比較試験において,前立腺癌のマーカーである血清 PSA 濃度が約 50%低下することが示された.

そのため,フィナステリドを投与中の男性型脱毛症に対し,前立腺癌診断の目的で血清 PSA 濃度を測定する場合は,2 倍した値を目安として評価すべきである.
次いで女性型脱毛症に関しては,フィナステリド(1 mg/日)を用いた,137 名の女性被験者を対象とした観察期間 1 年のランダム化比較試験において 1 ㎡あたりの硬毛数はフィナステリド投与群で-8.7,プラセボ群で-6.6 といずれも減少し,フィナステリド投与群とプラセボ群の間で有意差はなかった.さらにデュタステリド同様,妊婦に投与すると DHT の低下
により男子胎児の生殖器官等の正常発育に影響を及ぼす恐れがあり,妊婦または妊娠している可能性のある女性,授乳中の女性への投与は禁忌である.
以上のように,男性型脱毛症に対するフィナステリド内服の発毛効果に関して,高い水準の根拠があるので,内服療法を行うよう強く勧める.他方,女性型脱毛症には内服療法を行うべきではない.ただし,海外の臨床試験は 18 歳以上の男性に対し行われ,安全性が確認されているが,国内の臨床試験は20 歳以上の男性を対象に行われたので,わが国では 20歳未満に対する安全性は確立していない.また,少なくとも 6 カ月程度は内服を継続し効果を確認すべきである.なお,内服を中止すると効果は消失する.